かかりのじかん ②

クラスの中を掃除している子に

よりによってぼくは


「それはみんなのことをあわせにすることは分かったよ。

 じゃあ、それは自分の事は幸せにするの?」

 

って聞きます。


すると、びっくりしたような顔をします。

答えないのでぼくはもう一度聞きます。

 

すると突然泣き出します。


それを見て、

後ろの方にいた子ども達がびっくりした顔をします。


「おい、あいつ、泣いてるぜ」

「いつもならほめられるのに。叱られてる」

「クラス一、優秀なのに……」


本人より動揺しているのが明らかです。


「じゃあ、幸せにするって何すれば良いんだよ」


前では泣き崩れ、

後ろではぶつぶつ。


そんな混乱が極みに達したその時のことです。


さっきから教室の隅で淡々と折り紙を折っている子がいました。


ずっと一人で。


折り方を思い出しているのか、

時折、教室の上の方を見上げて、

にっ、と笑うのです。


何かにとりつかれたように、夢中になっていて、

手の動きだけを見ている芸術的でさえあります。


前の担任の先生はこの子をこのように言っていました。


大人しい。

目立たない。

勉強も運動も普通。


発言も少ない。

意思表示も少ない。


だから、とこういって結びます。


「何を考えているか分からない」


でも、その手は、ものすごく強い意志を持って動いているのです。


ぼくがその姿に感心していると、

先程の優秀だとされる子がやってきました。


そして、折り紙を折っている子を指さして


「先生、あれっていいんですか?」


って聞くんです。


どうやら、この時間に折り紙を折って良いのか、

と聞いているらしいのです。


ずっと、優秀だとされる子は常に、

その場のと中心者に許可をとってきて、

許可されたことについて最大のパフォーマンスをしてきました。


要するに、

そんな勝手なことをして良いのか、

と聞いているわけです。


ぼくはおだやかに言います。

「本人に聞いてごらんよ」


ぼくは、折り紙を折っている子を指さしていいます。


「聞いてみな」

「……」

「それって『自分を幸せにしているの』って」

「……」


優秀だとされる子は黙って、折り紙を折る子を見ています。


じっとじっと見ています。


何も言えません。

元々聡明な子だから、

折り紙を折る子が幸せかどうかなんてわかっています。


それ以上にその圧倒的な存在感にただ打ちのめされて、

どうしていいのかわからなくなっています。


感受性のするどい子だと、再びこの時点で泣き出してしまいます。


なぜなら自分がずっと、

誰かのために頑張って頑張って頑張ってきたことが

明らかになったからです。


優秀だとされる子は、呆然としたまま自分の席に戻ります。

そして呆然とします。


机にうっぷして泣く子もいます。

やがて、折り紙を折っている子のそばに別の子がやって来ます。

その子も大人しい、とされている子です。


「ねぇ、一緒にやらせて」

振り絞るように精一杯の声で言います。


「えっ? いいの」

その子も学校では決して見せたことの無いような笑顔を見せます。


二人は、机を並べて黙々と折り紙を折ります。


しばらくすると、二人から楽しいねぇ、

っていう声が聞こえてきます。


「ねぇ、いれてくれる?」

そうして三人、四人とメンバーが集まってきます。


さらに係の時間を重ねていくとこんな事が起きます。


「ねぇ、その折り紙の作品、欲しい」


おるのは面倒だけれど

それが欲しい、という子達です。


折り紙を折る係の子達は、ビックリしてお互いを見合わせます。


「もらってくれるの?」

そう言いつつ、嬉しそうに折り紙を作ります。


こんな風に自分達に求められる経験が少ないので、

はりきって折り出します。


「どうぞ」


「うわぁ、すごい」


作品をもらった子の直接的な反応から火がついて、

ほどなくオレも、わたしも、と作品を求められます。


楽しかったのもつかの間、

四人は必死で、ハアハアいいながら作品を作ります。

こんなに求められたことがないからです。


そんな時、また不思議なことが起こります。


突如、まったく違う子がやってくるんです。


「それさ、言われて全部つくるのって大変だから、

係のプレゼンタイムでじゃんけんをして、

勝った人にあげるのってどう?」


新しい視点やアイデアを提供する。

つまりコンサルティングしてくる子が現れるんです。


係の時間には「プレゼンタイム」という時間があります。


給食や放課後のちょっとした時間に

自分たちの活動報告やインフォメーション、

プレゼンをしてもらうのです。


係で考え

漫才やダンス、劇やクイズなんかをします。


司会の才能がある子は

ここで名司会ぶりを発揮します。

その場を有効活用しよう、という提案です。


さぁ、この折り紙係。

本人達が経験したことのない不思議な体験が始まっていきます。


(最終回に続きます ↓ )

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